金木犀

金木犀について考えるとき、君のことを考える。

「赤黄色の金木犀」とか「金木犀の夜」とか「キンモクセイ」のことを考える。

 

あんなことを言った手前言いにくいけど、折に触れて君のことを考える。

 

君に好きな人(異性に関わらず)が出来たかなとか、君は今楽しく暮らしてるかなとか、そんなことを考える。

 

君を見つけたときのなんともいえない高揚感のようなものは、今でも記憶の1シーンにしっかり残っている。

 

自分から声をかけようと思うことなんて滅多にないのだけど、あのときは行動に移すことが、話しかけることが僕にとってとても当たり前のことのように思えた。

 

Xデーを決めた。

 

君と出会って話すことをゴールにして、その日までは、僕のわがままを通そうと思った。君が僕のことを疎ましく思っても、接することが僕の独りよがりに過ぎなかったとしても、君と直に話すまでは僕の身勝手を押し通そうと思った。

 

Xデーまで僕がやりたいこと、出来ること、出来うることをやった。

 

あのときの僕の一喜一憂っぷりはとても恥ずかしいものがある。

 

 

Xデー、あの日、僕は拒絶されたように思う。

 

そのときの気持ちは、「今まで本当に申し訳ないことをしてしまった」という気持ちと、「それでもここまで付き合ってくれてありがとう」という気持ちと、ただ心にぽっかり穴が開いた空虚な気持ちが混在していた。

 

Xデーはあの日だから、これ以上僕が関わる大義はなかった。もう僕のわがままを押し通す余地はなかった。

 

そして君は去った。中から煌々と明かりが洩れたあのコンビニから。

君がいないコンビニで、僕は寒さでかじかんだ手を必死に吐息で暖めながら、もういるべき理由を見出せず、それでもただぼんやりと立ち続けた。

 

あれから2年経った。

 

たまに君のことを考える。

金木犀について考える。

 

見送った列車の行き先について考える。

 

 

キンモクセイがそうさせる。突き刺すくらいに感傷的な。キンモクセイがそうさせる。